プラモデルの組立説明図を見たことがあるでしょうか。各部品の順序などが,写真ではなく線画(イラスト)で説明してあります。
また,電気掃除機の取扱説明書には,紙パックの取り付け方や延長管のつなぎ方などが、やはり線画で描かれています。
これらの線画を「テクニカルイラストレーション」といいます。また、これを制作する専門家を「テクニカルイラストレーター」と呼んでいます。
【言葉の意味】
ごく簡単にいえば、「テクニカルイラストレーション」は、テクニカルなイラスト、 すなわち「技術的な解説図」です。これに関わる人達の仲間内では、英文の頭文字をとって「TI」と略称で呼と呼ばれています。
英文:Technical Illustration 略称:「TI」(ティーアイ) もう少し正確な表現をすれば、次のようになります。
「工業製品の製作図に示されたデータまたは実物スケッチにより、その構造機能を正確明瞭に表現した立体図を主とし、系統図、配置図などの象徴図を含む解説図の総称。」
(日本テクニカルイラストレーション協会発行の用語集より)
それでは、あなたの知らない「テクニカルイラストレーションの世界」へどうぞ!
テクニカルイラストのお話し
テクニカルイラストの歴史
ビジュアル表現には欠かせないTIの技法。その歴史をひも解きます。
- コミュニケーションの発祥
- 「テクニカルイラストレーションの歴史」の推敲 今から数十万年前、人類はこの地球上で生活を始めました。 その時から互いの意志伝達手段として身近な生活に関するイラスト(落書き)を岩壁などに描き始めました。 それらは、見たままを 描いた写実的なものから抽象的な記号までが先史時代の住居跡から原始生活の反映として発見されています。 紀元前数千年になるとエジプトのナイル文明、バビロニアのメソポタミア文明、ギリシャのエー ゲ海文明、インドのインダス文明、中国の黄河文明など国家が誕生し、租税や行政のために絵文 字から発達した象形文字、商取引を円滑に記録するためエジプトの象形文字から変化したフェニ キア文字(アルファベッドの原型)のような表音文字が記録のために使われ始めました。
- テクニカルイラストレーションの起源
- しかし、墳墓など祭儀のためのモニュメントには埋葬者の生前の功績を讃え「説明する絵」(イラストレーション)が多用され続けました。 紀元350年から950年頃、南米ペルーのナスカに長さ約40kmから幅約20kmの台地に 石ころを配列した、巨大な動物達のイラストが描かれました。これは、南半球の夏至の時季に合 わせた天文説明用の地上絵であり、地球のスケールに合わせた世界最大最古のテクニカルイラストレーション、すなわち科学の「技術説明図」だといえます。 イタリアルネサンスに屋内壁面の装飾用に開発された遠近画法は、現在までパースペクティブとして建築の完成図などに多用され図法として確立されました。
- テクニカルイラストレーション技法の確立
- 一方、テクニカルイラストレーションの標準的な図法である軸測投影法はルネサンスの天才ダヴィンチによる機械などの斜投影 図的スケッチから始まり、19世紀初頭のイギリス人ウィリアム・ファリッシュ、20世紀初頭のドイツ人ルドルフ・シェスラーらにより等測図法として確立されました。
- テクニカルイラストレーションの発展
- 現在のテクニカルイラストレーションは第二次大戦中のアメリカで、軍需兵器の組立やメンテナ ンスのために図法規格が開発されました。複数の母国語を持つ人々からなるアメリカ合衆国では、 言葉の壁を超えたテクニカルイラストレーションがマニュアルの中で威力を発揮させました。
- 日本のテクニカルイラストレーションの基礎
- 日本におけるテクニカルイラストレーションは、各地でイラストを描いていた方々20余名が昭 和44年4月に千代田区神田で「日本テクニカルイラストレーション協会」(日本ビジュアルコミュニケーション協会の前身)を設立させたのが始めです。初代会長の富田素忠氏は戦時中は航空機設計技術者でした。 昭和51年に労働省が産業界発展の一策として、技能検定職種にテクニカルイラストレーション技能士を制定しました。現在、協会では公認1級技能士が主体の技能検定試験への協力や教育活動の他、一般会員の技術向上のための研究会などを行っています。
テクニカルイラストの役割りと用途
- テクニカルイラストの役割
- 私たちが情報を伝えようとするとき、次の表現方法を使っています。
・言語表現:話す、書く(会話、文章)
・視覚表現:描く(イラスト、図面、絵など)、写す(写真、映像)
・身体表現:身振り手振り、目配せ
日常生活では、話すこと、書くこと、すなわち言語(言葉)による表現が最も多く用いられます。 しかし、電話で地図の説明を聞こうとしても失敗することが多いように、言葉だけでは伝えにくいものも多くあります。技術が発達した現在では、更に視覚的表現の必要性が高まっています。 TIは、絵画、写真、映像などと共に視覚的表現に含まれます。 これらは、それぞれの特徴に合わせて利用されています。その中でTIは、前記「テクニカルイラストの特徴」のように、技術面の情報伝達に適する特徴を持っていますので、工業製品の視覚表現による情報伝達に多用されています。一般の人の目に触れることは少ないのですが、家電製品、オーディオ、プラモデルなどの説明書でその例を見ることができます。パーツカタログ、取扱説明書など工業製品の販売、技術サービス関係のドキュメントには、欠く事ができない情報伝達技術になっています。 - テクニカルイラストの主な用途
- 次のように、TIは各分野で用いられますが、パーツカタログ、取扱説明書などに多様されています。
(1).研究・開発……デザイン図、完成予想図、特許図
(2).生 産…………作業手順書(作業法)、組立要領図、配置図、提案書
(3).宣 伝…………カタログ、広告、販売用資料
(4).販 売…………取扱説明書、付属品リスト、年間保用品リスト、価格表
(5).技術サービス…パーツカタログ、保守(修理)マニュアル、交換部品説明書
テクニカルイラストの特徴
- テクニカルイラストの特徴
- TIの主な特徴は、次の通りです。
(1).形状を、正確に直感的に把握できます。 正投影図である製作図に比べてTIは、対象物の形状を直感的に把握することができます。 (下図参照)
(2).誰が描いても、正確な図が描けます。 TIは、投影法に基づいて描きますので、図形の姿勢など基本事項を決めておけば、 誰が描いても同じ図になります。絵画の場合は、絵書き手によって異なるものになります。
(3).対象物がなくても描くことができます。 写真は、対象物がなければ撮影できませんが、TIは、対象物がなくても製作図などのデータがあれば、描くことができます。したがって、事前に完成予想図を描くこともできます。
(4).目的とする情報を強調して描くことができます。 必要な部分だけを描く、必要な部分だけの線を太くする、矢印を利用するなどの方法で、最も伝えたい情報を強調して描くことができます。
(5).内部構造を自由な断面で描くことができます。 立体組立断面図、透明図使用を描くことで、最も適切な部分を断面にしたり、透明にして内部構造を説明することができます。
(6).部品の分解順序を正確に描くことができます。 部品を分解順序にしたがって正確に配置して描くことができます。
この立体分解図 は、パーツカタログに多用されています。(図C)
テクニカルイラストに用いる投影法
技能検定試験について
テクニカルイラストには国家で定めた技能検定制度があります。
- 技能検定概要
- 国家検定制度 技能検定は、技能を一定の基準によって検定し、これを公証する国家検定制度です。特級、1級、3級などの等級区分があり、合格したものだけが「技能士」と称することができます。 130以上の職種があり、テクニカルイラストレーション(以下「TI」と略す)は、その職種の一つです。
- TI技能検定の実施時期
- 技能検定の試験は、前期と後期に分けられて毎年1 回、都道府県単位で実施されます。現在、TIの試験は後期に行われています。
- TI技能検定の受験資格
- ■3級
●実務経験1年の初級技能者
●職業高等学校の機械、電気、建築の各科卒業予定者
●職業技術専門学校の関係学科卒業予定者
●労働大臣が指定する専修学校と各種学校の関係学科の卒業予定者
※但し、専修学校と各種学校の場合は、あらかじめ学校単位で労働大臣の指定を受けることが必要です。TIの場合は、機械製図、電気製図、建築製図、トレースなどの教育を800時間以上行っていれば申請することができます。
※問い合わせ先:都道府県 の職業能力開発課またはその業務を担当する部門
■2級
●3級に合格してから半年の実務経験
●職業高等学校の機械、電気、建築 の学科を卒業してから2年の実務経験
●その他の場合は3年の実務経験
※職業訓練の終了者は更に有利になります。
※詳細は、都道府県の職業能力開発協会が発行する「技能検定受検案内」 を参照してください。
■1級
●2級に合格してから5年の実務経験
●職業高等学校の機械、電気、建築の学 科を卒業してから10年の実務経験
●その他の場合は12年の実務経験
※職業訓練の終了者は更に有利になります。
※詳細は、都道府県の職業能力開発協会が発行する「技能検定受検案内」 を参照してください。 - TI技能検定の受験申請
- 受検申請窓口は都道府県の職業能力開発協会 技能検定受検の窓口は、都道府県の職業能力開発協会です。TIの試験がある後期の技能検定は、9月中旬から10月上旬に同協会へ問い合わせれば「技能検定受検案内」と「技能検定受検申請書」を入手することができます。学校や会社でまとめて受検申請することも可能です。
- TI技能検定の受験日程概要
- ・試験実施の公示: 9月上旬(都道府県の「お知らせ」などに掲載。)
・受付期間 :10月上旬(約2週間)
・試験の実施通知:12月下旬
・実技試験日 : 1月下旬または2月上旬の日曜日
・学科試験日 : 2月上、中旬の日曜日
・合格発表 : 3月下旬
・合格証書の交付: 5月 - TI技能検定の実技試験内容
- ■3級実技試験
第三角法で描かれた課題図から、等角投影図(等測投影図)で、立体外観図(姿図)をCAD(グラフィックソフトを含む。)または手書きにより作成する。
・試験時間は2時間
■2級実技試験
第三角法で描かれた課題図から、等角投影図(等測投影図)で、立体分解図(分解立体図)をCAD(グラフィックソフトを含む。)または手書きにより作成する。
・試験時間は3時間半
■1級実技試験
第三角法で描かれた課題図から、等角図(等測図)で、立体組立断面図をCAD(グラフィックソフトを含む。)または手書きにより作成する。
・試験時間は4時間半 - TI技能検定の学科試験内容
- ■3級
問題文を読んで○×式で正誤を解答する方式です。現在のと ころ約30問を約1時間で解答することになっています。
■1・2級
問題文を読んで○×式および、択一問題で正誤を解答する方式です。3級より問題数が多くなり、約50問です。時間も長くなります。