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スペシャルインタビュー その2
手描きの時代から現在まで、テクニカルイラストレーターとして第一線で活躍しつづけている三村康雄さんに、テクニカルイラストとの出会い、その職業人生にわたってつづけている努力と工夫、テクニカルイラストレーターの苦労から醍醐味まで、様々なお話を伺いました。
営業・設計を経験した会社員時代と、テクニカルイラストとの出会い
ーまずは三村さんがテクニカルイラストと出会うまでについて、教えてください。
僕は大学では機械工学を専攻して、卒業してからは医療機メーカーに勤めたんです。希望は機械の設計だったけど、営業として入って。で、30歳くらいのときに会社のトップに、設計に回してくれってお願いしたんですよ。回してくれないなら辞めますって言って(笑)。それからは設計が面白くてね。やりたいとずっと思っていたし、営業だった時にお客さんの細かい要望を沢山聞いていたわけ。それを、設計に入ってからダーッと注ぎ込んだんですよ。でも、自分が設計した機械が出来上がると、今度は工場で組立ててもらわなきゃいけない。そのとき、機械についてよく分かっていない工場のパートさんに、どうしたらうまく組立て方を伝えられるだろうって考えたんですよ。それでこういう絵(図面①)を手書きで描き始めたのが、僕が立体図を描き始めるスタート。これ、ラジオで久米宏さんにもお見せしたんですけど注1、こういう図面に、これとこれをこう組むんですよっていう説明文を順番に付けてあげて、指示書を作ったんです。
図面①
ー初めてなのに、いきなりセンスを感じる図面ですね(笑)
ありがとう(笑)。これ、直線は定規を使ってるけど、丸はほとんどフリーハンド。この頃、僕はまだ「テクニカルイラスト」という言葉すら知らなかったけど、元々絵を描くのは好きだったからね。それで、こんな絵を描き始めた頃に、本屋でたまたま特許図面の本を見かけたんですよ。ん!?と思って開いてみたら、そこに「テクニカルイラスト」という言葉があって、自分が描いた絵に似てる。これは!と思って調べて見つけた通信講座で、基本的な描き方を習得したんです。当時はまあ、技能士注2の三級くらいのレベルだったかもしれないけど。でも、ちょうどその頃くらいから、勤めていた会社の状況が段々悪くなってきてね。だから僕は、勤めながらバイトしてたんです。
※注1:2014年12月20日、TBSラジオ「久米宏のラジオなんですけど…」にゲスト出演し、テクニカルイラストについて語った際のこと。
※注2:テクニカルイラストレーション技能士のこと。
特許図面作成のアルバイトから、独立へー
ー勤めながらですか?相当大変だったんじゃないですか?
大変でしたよ!会社へ行く通勤途中に特許事務所に寄って仕事をもらって、昼間は本業をやるでしょ。帰ってから今度は、自宅でその特許図面の仕事をやるんですよ(笑)。寝て起きたら次の朝に特許事務所に寄って仕事を納めて、また別の仕事をもらって会社に行く、ってこれを半年くらい続けたの、休みなく(笑)。でも、その図面の仕事が面白くてね!思い切って本業のほうは辞めて、32才のときに独立したんです。
ー独立してみて、どうでしたか?すぐ軌道に乗れましたか?
いやいやいや。当時は手描きだったんだけど、手も遅いし、慣れないし。とにかく、長時間手を動かしてなきゃいけない。例えば、月にこのくらいの収入がほしいとなったら、一日20時間手を動かさないといけない、とかそんな感じ。
ー独立まで、通信講座のほかに誰か先生に教えてもらうようなことはなかったんですか?
なかったんだよね。ただ、本を買った辺りから、日本ビジュアルコミュニケーション協会(以下、JAVC)注3の存在は知っていて、その当時から検定セミナー注4あってね。そこで勉強して技能検定試験を受けたんだよね。今思えば、この頃学んだものが勉強になったね。実務経験があったから僕はいきなり技能士の一級を目指したんだけど、結局二回落ちて、三回目にやっと受かったんだ(笑)。でもそんなもんですよ、他のみんなも。そういえば僕は、駆け出しの頃に、ある会社にね、図面のサンプルを持って営業に行ったんですよ。そしたら、こんな図面じゃあ全然ダメって言われちゃって、ガクーンと落ち込んだよ(笑)。そのときちょうど技能士検定も落ちたときでね、ダブルパンチ(笑)。これで本当にやっていけるのかな?って心配になったよ。
※注3:当時の名称は、日本テクニカルイラストレーション協会。
※注4:日本ビジュアルコミュニケーション協会主催の「テクニカルイラストレーション技能検定試験対策セミナー」のこと。
ー(笑)三村さんでもそんなことあるんですね!
ありましたよ。もう、挫折の連続ですよ(笑)
ーでもそれを乗り越えて強くなった。
うん。とにかく、この仕事でやっていきたい気持ちがすごく強かったからね。
成長と、PC時代への転換
この仕事を始めた頃は特許図面だけだったけど、徐々に立体図を描く仕事の割合を増やしたんですよ。でも初めはまだ手が遅かったから、仕事を出してくれる方もまずは簡単な図面から出してくれたのね。これはありがたかったなぁ。その会社は立体図専門で描いてる会社で、ここで僕は相当仕込まれた。ネジをちょっと曲がって描いたり、間隔がズレたりすると、すぐダメって細かいチェックを入れてくれた。ここで僕は相当テクニカルイラストの技術を学びましたね。分解図の分解の仕方とか、今僕が持っているノウハウはここで得たんですよ。それで段々慣れてきて、描く時間が早くなっていったんだけれども。
ー当たり前ですが、手描きだとネジも一つ一つ描かなくてはいけないんですね。CADだったら、コピペで済む話ですが…。
うん、全部描くんだよ。マイクロ楕円っていう、ものすごく穴の小さいテンプレートを使ってね。それに、パソコンだとパーツの移動って簡単じゃない?グループにしてスッと移動できるけど、手描きだとそうはいかないから。一発勝負なんだよ。
ーなるほど。手描きだと、描き始めの位置を間違えただけで致命的ですもんね。広い紙面の右上に固まって描いちゃう、とか(笑)。
でしょ? たまにはそういうこともあったけどね(笑)。でも慣れたら、メインのパーツをどこにおいて、どういう風に分解すればいいかって、想像できるようになる。当時は、A1、A0サイズの用紙に描くんだけど、慣れると不思議とね、頭の中でどういう風に分解していくかがイメージできるのね。スケールだって、この部品点数だとスケールを1/20にすべきか1/10にすべきかって、分かるようになるんですよ。そうやってプロになっていくわけです。
ー経験と努力の賜物ですね。
そうだね。それに、早く描けるようになってくると、時間単価もずっと上がって収入も増えるでしょ。面白みも増えるし。
ー手描き時代の苦労で、記憶に残っているものはありますか?
僕は作図のほかに「仕上げ」もやってたんですよ。「仕上げ」っていうのは、作図した図の上にトレーシングペーパーを引いてインキングする、つまり下図をインクでなぞって図面を仕上げることなんだけど、それもやってました。これが大変なんですよ。夏場、特に梅雨時は湿気が多いでしょ?そうすると、昨日描いた図面がずれちゃうわけ。紙が湿気で伸びるから。だから、インキングするときは一回で仕上げる。こんな大きい紙一枚を。それくらい覚悟して描き始めるんですよ。ハチマキして汗が垂れないようにして、腕の辺りも汗がつかないように夏でも長袖、完全防備で(笑)。あれは大変だったなぁ。そんな風にね、手描きで随分がんばってきたんだけど、とうとうパソコンに移り変わる時代がきたんですよ。当時お付き合いしていた会社から「手描きだともう仕事は出せない」って言われちゃってね。思い切ってパソコンと周辺機器を購入して、それからは必死に取説を読んで、ソフトの機能を探りましたよ。
ーパソコンで描き始めた結果、どうでしたか?
やっぱり、早い。コピーペーストができるし、レイアウトも楽だし、拡大縮小も自由でしょ?そういう意味では助かりましたね。
表現の幅を広げつづける努力、そこから得たもの―
実はね、僕はテクニカルイラストでもっといろんな表現ができないだろうかって、いつも考えてたの。分解図を「こう組み立てるんですよ」という風に、動きを付けて説明できたら分かりやすいな、とかね。それでアニメーションに興味を持った。Flashのようなアニメを使ったマニュアルを作ったのは、たぶん僕が最初じゃないかな。当時は画期的でね、全国に営業したら反響がすごかった。実際に仕事につながったのも沢山ありましたよ。それから、僕はこういうアニメーションを作りながら、グラフィック表現も追及しててね。僕が始めたのは「フリーハンド」というドロー系ソフトだったんだけど、これを使いこなせるようになったら、結果としてカラーイラストの仕事ももらえるようになったんですよ。例えばこの図(図面②)とか。これは、フリーハンドとフォトショップで作ったんだけど、写真とカラーイラストを融合しているんですよ。
図面②
ー構造が感覚的に伝わりますね。
そうでしょう。イラストだけだと伝達力が弱いところがあるけど、実写と組み合わせることでインパクトが出るんですよ。今は、こういう表現も当たり前かもしれないけど、当時はなかったからね。
ーやっぱり漫然と描いているだけじゃなくて、新しい発想を出すこと、さらにそれを発信していくことも大事なんですね。
そうだね。だから、いろいろな表現を探っては随分と営業をして、そこから仕事につなげてきましたね。
ーなるほど。ところで今、この図面(図面③)を見ていて思ったんですが、強調したい部分とそうでない部分とを、しっかり描き分けていらっしゃるんですね。
うん。どこを一番見せたいかを考えるのは大事だよ。写真とイラストのちがいは、ここ。イラストは必要なところを強調して描くことができるから。
ー全部を均等にきっちり描かずに、見せたい部分を絞って、残りはあえてふわっと表現するのも有効なんですね。
そう。全部同じボリュームで描いてしまうと、かえって焦点がぼやけちゃうんだよね。だから、お客さんがどこを強調したいのかを話の中から汲みとって、そこをドーンと描いてあげると喜んでくれる。「すばらしい!」って言ってくれるよ(笑)。
ーすばらしい!ですか、うれしいですね(笑)
「ブラボー!」、なんて言われたこともあるよ(笑)。これ(図面③)は特許図面だけど、この件は資料が少なくて、自分でアレンジしないといけなかったんですよ。強調したいところはあるんだけど、もらった図面通りに描くと、強調したい部分の前に物があって、見えなくなっちゃう。そういうときは、微妙にずらして描くんですよ。あまりやりすぎると、実物と違うよって言われちゃうけど、差支えがない程度にずらして描くのもテクニックなんですよ。
図面③
ーそこまでリアリズムにこだわる必要のない図面なら、わかりやすさを優先させるということですね。そういえば以前、三村さんのセミナーで、ボールベアリングをバカ正直に描くと中の玉が見えなくて分かりにくくなるから、あえて玉を手前にずらして、玉が見えるように描くとおっしゃってましたね。
そうそう、そういうこと。レベルが高くなってくると、そういうノウハウも駆使して描いていかないといけない。機械の分解図を作成するには、組図と部品図をお客さんからもらって、それを分解図にしていくんだけれども、かなりの読図力が必要なんだよね。例えば複雑なパーツは、大体、図面三、四枚に描かれた内容を読み込んで、立体に描いていくわけ。分解図の場合、特に大事なのは部品の前後関係。当然、後で修正できるけど、あまりにも滅茶苦茶だと時間がかかりすぎてダメ。もちろん、分からないところも出てくるんだよね、向きとかね。それはひとまず描いてからチェックしてもらう。でも、慣れたら部品点数が100点くらいあっても、変更はほとんどないですよ。何箇所かパーツの前後が逆、くらいで。僕の場合、基本的にはほとんどOKと言われるから。
ー「やりがい」というものを感じますか?
やりがいは感じるね。僕は絵も好きだったし、機械系も好きだったんでね。これは自分に合った一番の仕事だな、と思ってます。
これからテクニカルイラストを学ぶ方へ、メッセージ
ーでは、これからテクニカルイラストを学びはじめる方に向けて、何か伝えたいことはありますか?
自分の仕事に、テクニカルイラストの技術を活かしてもらえればすごく嬉しいね。僕は僕なりに表現方法を模索して、それを形にしてきたけど、僕みたいにテクニカルイラストだけで仕事をして生きていく、というのは本当にまれだと思うんですよ。これからの人は、様々な仕事を、テクニカルイラストを利用して広げていってほしいなと思うJAVCのセミナーがそのきっかけになったらいいよね。やっぱりJAVCのような場で仲間と情報交換するのはいいことだよ。自分一人では解決できない問題も、誰かが答えを知ってるということはよくあるから。だから、どんどん利用してもらいたいね。
みむら やすお テクニカルイラストレーター1級技能士であり、日本ビジュアルコミュニケーション協会副会長、中央技能検定委員、工学院大学非常勤講師等を務める。
著書に、「テクニカルイラストレーションのおはなし」(平野安正、本田紀勝、渡辺潔共著)、「実践テクニカルイラストレーション―デジタル表現技術」(永山嘉昭、三代川省吾共著)。
三村 康雄
 

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